iDeCoとNISA 両方活用して老後資金を準備する? 併用のメリット・注意点 初心者向け解説
iDeCoとNISA 両方活用して老後資金を準備する? 併用のメリット・注意点 初心者向け解説
将来の生活資金、特に定年後の暮らしについて、漠然とした不安を感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。そのような中で、iDeCoやつみたてNISAといった国の税制優遇制度を利用した資産形成に関心をお持ちのことと思います。
これまで、iDeCoとNISAそれぞれの制度について理解を深めてきた方もいらっしゃるかもしれません。それぞれの特徴を知るにつれて、「この二つの制度は、もしかして両方利用できるのだろうか?」「両方使うと、何か良いことがあるのだろうか?」といった疑問をお持ちになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この制度は少し複雑に感じるかもしれませんが、iDeCoとNISAは、一定の条件下で両方利用することが可能です。そして、それぞれが持つ税制上のメリットを組み合わせることで、より効率的に将来資金を準備できる可能性も生まれます。
この記事では、iDeCoとNISAを両方利用することのメリットや、始めるにあたって知っておきたい注意点について、投資初心者の方にも分かりやすいように解説します。ご自身の資産形成を考える上で、一つの選択肢として参考にしていただければ幸いです。
iDeCoとNISA 制度の簡単な違いをおさらい
iDeCoとNISA(ここでは主に多くの方が利用するつみたて投資枠や成長投資枠を想定します)は、どちらも資産運用で得た利益にかかる税金が非課税になる、という共通点があります。しかし、制度の目的や仕組みには違いがあります。併用を検討する上で、改めてそれぞれの基本的な特徴を確認しておきましょう。
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iDeCo(個人型確定拠出年金)
- 目的: 老後資金づくりを支援する制度です。
- 掛金: 原則として毎月一定額を拠出します。拠出額には上限があります。
- 税制優遇:
- 拠出時: 掛金が全額、所得控除の対象になります。これにより、所得税や住民税の負担を軽減できます。
- 運用時: 運用によって得られた利益(運用益)が非課税になります。
- 受取時: 受け取り方によって、公的年金等控除や退職所得控除といった税制上の優遇があります。
- 資金の引き出し: 原則として60歳まで引き出すことができません。
- 対象: 20歳以上65歳未満の国民年金被保険者等(公務員や会社員、自営業者など、加入区分によって拠出上限額が異なります)。
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NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)
- 目的: 国民の資産形成を支援する制度です。(2024年から新しいNISA制度が始まりました)
- 投資枠: 年間投資枠(つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円、合計360万円)の範囲内で投資できます。
- 税制優遇:
- 拠出時: iDeCoのような掛金の所得控除はありません。
- 運用時: 運用によって得られた利益(運用益)が非課税になります。非課税で保有できる生涯投資枠(1,800万円、うち成長投資枠は1,200万円まで)が設けられています。
- 受取時: 運用益にかかる税金は非課税ですが、運用資金そのものを引き出す際に税金はかかりません(運用益に対して税金がかからない、という意味です)。
- 資金の引き出し: 非課税期間中であれば、いつでも(運用している商品を売却して)資金を引き出すことができます。
- 対象: 18歳以上の居住者等。
このように、iDeCoは「老後資金を確実に準備する」という目的が強く、掛金の所得控除という大きなメリットがある一方、原則60歳まで資金を引き出せないという特徴があります。NISAは、運用益が非課税になることに加え、比較的自由な資金引き出しが可能で、より幅広い目的の資産形成に利用できます。
iDeCoとNISAを併用するメリット
iDeCoとNISAはそれぞれ異なる特徴を持っていますが、これらをうまく組み合わせて活用することで、単独で利用する場合よりも大きなメリットを享受できる可能性があります。
1. 非課税投資枠を最大限に活用できる
iDeCoにもNISAにも、それぞれ年間で投資できる金額に上限(非課税投資枠)が設けられています。iDeCoの年間拠出上限額は、加入者の区分によって年間14.4万円から81.6万円まで異なります。NISAの年間投資枠は、つみたて投資枠と成長投資枠を合わせて最大360万円です。
これらの制度を併用することで、それぞれの制度の非課税投資枠を利用できるため、より多くの金額を非課税で運用できることになります。例えば、iDeCoで年間上限額を拠出しつつ、NISAでも年間投資枠の一部または全てを利用するといった形で、非課税投資枠を効率的に活用できます。
2. 税制優遇のメリットを両方享受できる
iDeCoの最大の税制メリットの一つは、拠出した掛金が全額所得控除の対象となる点です。これにより、毎年の所得税や住民税の負担を軽減できます。
一方、NISAは掛金の所得控除はありませんが、運用によって得られた利益(運用益)が非課税になるという大きなメリットがあります。
iDeCoとNISAを併用することで、iDeCoの掛金による所得控除のメリットと、iDeCo・NISA双方の運用益非課税のメリットを両方享受できます。これは、特にiDeCoの掛金上限額を拠出できる方にとって、非常に強力な税制優遇の組み合わせとなります。
3. 資金の柔軟性と老後資金をバランス良く準備できる
iDeCoは原則として60歳まで資金を引き出せないため、老後資金として確実に積み立てたい資金に適しています。一方、NISAで積み立てた資金は、必要になればいつでも(売却して)引き出すことが可能です。
この特性を活かし、iDeCoで老後資金の中核を積み立てつつ、NISAで住宅資金や教育資金、あるいは万が一の備えなど、将来の様々なライフイベントに備えるための資金を準備するといった使い分けができます。資金の柔軟性を保ちながら、老後資金も着実に形成できるというメリットがあります。
4. リスク分散の機会を増やせる
iDeCoとNISAでは、それぞれ運用できる金融商品のラインナップが異なります。また、それぞれの制度で運用資産の配分(ポートフォリオ)を分けることで、より多様な資産に分散投資を行う機会を得られる可能性があります。これにより、特定の資産に集中しすぎるリスクを軽減することにつながります。
iDeCoとNISAを併用する際の注意点
iDeCoとNISAの併用には多くのメリットがありますが、いくつか注意しておきたい点もあります。
1. 各制度の仕組みと管理の手間が増える
iDeCoとNISAはそれぞれ異なる制度です。併用する場合、それぞれの制度のルール(拠出上限、運用期間、非課税期間、引き出しルールなど)を理解し、管理する必要があります。また、iDeCoとNISAでそれぞれ金融機関を選ぶ場合、手続きや運用状況の確認が二箇所になるなど、管理の手間が増える可能性があります。投資初心者の方にとっては、まずはどちらか一方から始めて、慣れてきたらもう一方を検討するという進め方も有効です。
2. 資金管理と積立額の設定
iDeCoとNISAの年間非課税投資枠を最大限に活用しようとすると、毎月の拠出・投資額が大きくなる可能性があります。特に40代後半や50代から始める場合、定年までの期間を考慮して、毎月どのくらいの金額を積み立てられるのか、無理のない範囲で検討することが非常に重要です。生活に必要なお金や、近い将来使う予定のあるお金を投資に回してしまうことがないよう、しっかりとした資金計画を立てましょう。
3. 老後資金の引き出しルール(iDeCo)
iDeCoで積み立てた資金は、原則60歳になるまで引き出すことができません。これは老後資金を確実に準備するためにはメリットとなりますが、急な資金が必要になった場合でも利用できないため注意が必要です。緊急予備資金などは別途確保しておく必要があります。
4. 運用商品の選び方
iDeCoとNISAでそれぞれ運用する商品を選ぶことになります。それぞれの制度でどのような商品を選ぶかによって、期待できるリターンやリスクの度合いは変わります。また、同じような運用商品を両方の制度で購入してしまうと、分散投資の効果が薄れてしまう可能性もあります。ご自身の運用目標やリスク許容度に合わせて、それぞれの制度でどのような商品に投資するかを検討することが大切です。
どのような人にiDeCoとNISAの併用が向いているか
iDeCoとNISAの併用は、以下のような方にとって特に有効な選択肢となり得ます。
- 税制メリットを最大限に活用したい方: iDeCoの所得控除とiDeCo・NISA双方の運用益非課税のメリットを両方享受したい方。
- 老後資金と並行して、他の目的の資金も準備したい方: iDeCoで老後資金の基盤を固めつつ、NISAでより柔軟な資金を準備したい方。
- それぞれの制度の仕組みを理解し、管理する手間を許容できる方: 複数の口座や制度を管理することに抵抗がない方。
- 毎月の拠出・投資に回せる資金に余裕がある方: 無理なく、iDeCoとNISA双方で積立を続けられるだけの経済的なゆとりがある方。
特に40代後半や50代から資産形成を始める場合、残された期間は比較的短くなります。税制優遇を最大限に活用できる併用は、効率的に資産を増やすための一つの有力な手段となり得ます。ただし、無理な積立は禁物です。ご自身の収入や支出、ライフプランを十分に考慮した上で、実現可能な範囲で検討を進めてください。
まとめ
iDeCoとNISAは、それぞれ異なる目的と特徴を持つ国の税制優遇制度です。これらの制度を併用することで、非課税投資枠や税制メリットを最大限に活用し、老後資金を含めた将来資金を効率的に準備できる可能性が広がります。
ただし、併用にはそれぞれの制度を管理する手間が増える、無理のない積立額設定が重要といった注意点もあります。ご自身の資金状況やライフプラン、投資経験などを踏まえ、併用がご自身にとって最適な選択肢であるかを慎重に検討することが大切です。
もし、どちらか一方を選ぶか、あるいは併用するかで迷う場合は、まずは無理のない範囲で一方から始めてみる、あるいは、金融機関の窓口やファイナンシャルプランナーといった専門家に相談してみることも良いでしょう。ご自身の状況に合った方法で、将来に向けた資産形成を着実に進めていきましょう。